▼第三話 みえないかけら▼

「ここだよ。」
さくらが指さした先には書店があった。
「・・・ここ書店じゃないのか?」
「そうなんだけど。ほら、看板見て。」

俺はさくらの言うとおりに看板を見ると
『白国書店』
と、毛筆で書いたような力強い書体の文字でそう書いてあった。
「・・・白国書店。・・・やっぱり書店じゃないか。」
「ちがうよ。右端の小さい文字。」
『本/雑誌/CD
・・・詐欺だ。いままでの俺の時間と労力を返してくれ。
とりあえずさくらのおかげで、俺はCDショップを見つける事が出来た。

「ありがとな。さくら」
「えっ、なにが?」
CDショップ教えてくれて。」
「いいよそのくらいの事。気にしないで。」
「そうだ。何か食べないか?さっきのお礼という事で、俺がおごってやるから。」
「えぇ。いいよ。悪いよ。」
「だけど、このままじゃ俺の良心が許さないからさ。」
「賢治くんに良心なんかあったっけ?」
「をぃ!」
「冗談だよ、冗談。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」
「なにがいい?」
「じゃあ、アイスがいいな。」
「えっ?」
今、アイスって聞こえたのは俺の聞き間違えだろうか?
「今なんていった?」
「だから、アイスがいいなっていったんだよ。」
「アイス・・・・」
こんなくそ寒い季節にアイスを食べる。想像するだけでおなかが痛くなってきた。
「本当にアイスでいいのか?」
「うん。」
「分かった。でも、こんな時期にアイスを売ってる店なんて、俺知らないぞ。」
というか、そんな店あるのか?
「大丈夫だよ。この先にすっごくおいしいアイスクリーム屋さんがあるんだよ。」
「じゃあいこうか。」
その店は、絶対に経営不振だろうな。もしかしたらその店、つぶれたりしてたりしてな・・・。

「おいしい!」
さくらが案内してくれた店は、商店街の端っこの方にある店で、結構人気があるみたいだった。さっきいったときも店の中にちらほらと客がいたのを見かけた。アイスクリームの材料のミルクも、牧場から直入している新鮮なミルクを使っているらしく、結構おいしかった(さっきさくらに少しもらった)。さすが北海道といったところだろうか。

「瑞穂に行ったら、食欲全開で飛びついてくるだろうな。」
「あっ、そうだ。瑞穂ちゃんは元気?」
「えっ?さくらって瑞穂にあった事あったっけ?」
「うん。一回だけ賢治君と一緒に遊んだ事あるよ。」
「そうだったかなぁ?」
がんばって破片と化した8年前の記憶を集めてみるが、どこにも見つからなかった。
「ごめん。覚えてない・・・。」
「そうだんだ・・・。」
「ん?どうかした。」
「えっ。ううん、別になんでもないよ。」
一瞬さくらの顔に暗い影のようなものが見えたような気がした。いつもの落ち込んだ顔とは比較にならない程、哀しくて寂しい色・・・。
「ありがとう。ごちそうさま。」
そのさくらの言葉で俺の思考は打ち切られた。
「あっ、うん。いいよ。ほんのお礼だから。」
「・・・もうすっかり暗いね。」
「あっ、ほんとだ。帰らなきゃ瑞穂が心配するな。」
気づくと、さっきまでの夕暮れの色は消え、かわりに銀色に積もった雪に降り注ぐ黒色の夜空を遮る町の街灯と店の照明が輝いていた。

「じゃあ、俺そろそろ帰るよ。」
「そうだね。私も帰ろ。」
「じゃあな、さくら。今日は本当にありがとな。」
「うん。また今度ね。」
「ああ。また今度な。」
そういってさくらは、まだ人の気配が薄れない夜の街に消えていった。

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