▼第6話 心の鍵U▼

初めての瑞穂抜きの登校。
無事学校にたどり着けるか不安だったから少し早めに家を出た。
とにかく北海道の冬は寒すぎる。
雪は積もるだけでいっこうに溶ける気配がない。
立ってるだけでも身が引き裂かれるように寒いのに
歩いて風を受けると、それこそ死にそうになる。
マフラーを巻き直して、また思考にふける。
なぜあの瞬間にたどり着けない?
自分の事なのに、まるで他人に記憶を操作された様な錯覚に陥る。
こんな時ほど自分を情けなく思う時はないだろうな。
「なんなんだろうな。これ・・・。」
ブロック塀の上でのんびりしている猫に話しかけてみた。
ただなんとなく誰かに話しかけたかっただけだ。返事なんか期待してない。
でも、話しかけないと自分が壊れそうだった。
それほどに今日の夢は俺の心を破裂寸前まで困惑させていた。
「・・・あなた、変人だったの?」
不意に後ろから女の声が聞こえた。おそらく俺に向けられた声だ。
振り返るとそこには早麻理と章一がいた。
「そうだな。変人確定。」
「今日会ってから第一声がそれかよ・・・。」
「だって、猫に話しかけるなんて、変人か猫語がわかる宇宙人位でしょ?」
まぁ、確かに。猫語がわかる宇宙人っていうのはよくわからない例えだが。
「いや、なんとなく誰かと話しかけたかったんだよ。」
「で、近くにいた猫に話しかけた、と?」
「まぁ、そんな感じだな。」
「変人確定、おめでとうございます!」
そういって章一と早麻理は拍手をしてきた。
「・・・朝から他人でもてあそんで、嬉しいか?」
「嬉しいですとも!!」
今度は章一&早麻理でハモって来た。なんなんだこのノリは・・・。
それからしばらく変人扱いされたのは言うまでもない。
・・・最悪だ。

学校ほど退屈な時間はないと思う。同時に睡魔との決戦である。
さっきからまぶたが重い。さっき一瞬意識が飛んでいた。
片肘をついて必死に睡眠防止策を考える。
授業終了まで15分程度。あと15分、されど15分。
この微妙な時間がまた苦痛である。
今の俺にとっては非常に長い15分だ。
ふと後ろから肩を2回ほどトントンとたたかれた。
そして1枚の紙。
それを受け取った。見ると表に
『賢治へ☆』
とかかれてある。一目で瑞穂の文字とわかった。
開いてみる。すると
『今朝、かなり考え込んでたけど、どうしたの?寝られなかった?』
と、書いてあった。見てたのか。
まぁ、無理もない。あんなに深く考え込んでたら、瑞穂にも気付かないはずだ。
俺は、ノートの端をすこしちぎると
『心配すんな。別に瑞穂の寝言がうるさくて寝れなかった訳じゃないから。』
と書いてやった。それを瑞穂の元へと回してもらう。
後ろから、俺から回ってきた紙に気付いた早麻理が
手紙をのぞき込んでいる。瑞穂もそのことは気付いているみたいだ。
だからなおさら俺の書いた文章はたちが悪い。
瑞穂は顔を赤くしてこっちをにらんできた。
すこしおかしくなってノートで顔を隠して声を出さずに笑った。
残り2分。かなり時間がつぶれた。まぁ、ここまで時間がつぶれたら
睡魔なんぞなんのその。余裕で板書をして、終了を待った。

やがて、授業が終わった。
礼をしていすに座り直して、一息ついたところに
血相を変えた瑞穂が襲ってきた。
「なんてこと書くのよっ!恥ずかしいじゃん!」
「俺は事実を言ったまでだ。」
さらに瑞穂をからかう。
「変人に言われちゃ立場ないわね、瑞穂。」
瑞穂の後ろで爆笑中の早麻理がつっこんできた。
「変人はやめてくれ・・・。」
「私は事実を言ったまでよ。」
「そうよ。」
それまですこし負け気味だった瑞穂が便乗してきた。
「だけど、瑞穂の寝言がうるさいのもまた、事実ね。」
瑞穂はまた負け気味になった。ナイスだ早麻理っ!!
よしっ。ここはもう一押し!
「そうそう。なんだっけ。昨日は『今日はチョコレートパフェ10杯食べるんだ〜!』って言ってたな。」
「もう、やめてよ〜。」
瑞穂はかなり弱って、俺をポカポカ殴ってくる。
言わなくてもわかると思うが、全く痛くない。
「まぁ、賢治君もそれくらいにしといたら?」
「そうだな。それより、飯だ、飯。」
2限目位から腹がしきりに空腹を訴えかけていた。
「賢治、食堂の場所しらないよね?一緒に行こ。」
「あ、俺も行くよ。」
「早麻理も食堂?」
「ええ。今日は弁当作れなかったのよ。」
「そっか、じゃあ4人で行くか。」
「うん。」

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